ロボット掃除機・ルンバが我が家にやってきてから2ヶ月になる。「所詮は融通の利かないロボット、どうせお払い箱になってしまうだろう」と、ずっと買うのをためらっていたのだ。買わなければよかったと後悔した物はこれまで数知れず。引き出しなどに仕舞える物ならいいけれど、大きな物はそうもいかない。捨てるに捨てられず、いつまでも目立つ場所にいて、いつ使ってくれるのかとせがむようになる。ルンバも図体が大きいから、リタイアさせられたら、彼らと一緒になって、恨めしそうに私を見るだろう。
やがて、ルンバを持つ人が増え、「食わず嫌いはやめて、早く買いなさい」と言われるようになった。確かに「所詮はロボット」などという資格は私にはない。掃除機をかけるのは多くて週に2回ほどだ。
言い訳になるが、視覚障害者にとって、掃除というのは見えない敵を退治するようなものだから、どのくらい退治できたかの確認も難しい。少々のホコリは、触覚で捕らえるにはデリケートすぎるからだ。掃除の出来上がりを人に見てもらえば、「隅のほうがちょっとね」と言われたりする。だから、掃除をしようというモチベーションもなかなか上がらないことになる。
そこで、ようやく重い腰を上げて買うことにした。結果、それは大正解だった。掃除の前の準備と、掃除の後のメンテナンスさえ行えば、ルンバは忠実に敵を退治してくれる。さらに、一人暮らしの私に、ルンバはペットの役割もしてくれるのだ。
掃除の前には、ルンバの邪魔になる物を片付ける。ルンバが働きやすい状態をルンバブルな状態と言うそうだ。部屋をルンバブルにするのも楽しい作業だ。しかも、訪問者が口をそろえて「きれい、完璧」と言ってくれるから、掃除はさらに楽しくなる。また、ダスト容器に溜まったゴミに触れば、「こんなにゴミが取れた」という達成感に浸ることもできる。逆に、ゴミの量が少ないとがっかりするから、なんのための掃除なのか分からなくなる。
掃除が終わると、ルンバに一連の手当てをしてやる。まず、ダスト容器に溜まったゴミを捨て、フィルターをきれいにする。それから、ブラシ類を取り外し、絡まったゴミを専用の器具で取る。前輪と後輪の手入れをした後、各種センサーを磨いて終わる。この一連の作業も、3・4分でできるようになった。
友人の家のルンバは、廊下に転がっていた糸巻が命取りになってしまったという。糸を最後まで食べ尽くした結果、全ての部品に糸が絡みつき、それが致命傷になったとのこと。私とルンバ、どちらが長生きするのかなと考えながら、今日も手当てを終えた。
「あっ、お掃除ロボットだ!真ん丸で、かわいいね」。2歳半になる孫がやってきて、そう言いながらルンバに駆け寄った。「お掃除ロボットより、良ちゃんのほうがかわいいよ」と言って孫を抱き上げる私である。