塩谷靖子のエッセイ集『寄り道人生で拾ったもの』が2009年4月に小学館より出版されました。

そして、5月には「日本図書館協会選定図書」に、9月には「全国学校図書館協議会選定図書」に選ばれました。

また、「第58回日本エッセイストクラブ賞」にて、推薦作174点の中から、最終候補5点に選ばれました。

このエッセイ集には、作家で日本ペンクラブ会長の阿刀田高先生と、聖路加国際病院理事長の日野原重明先生が帯文を寄せてくださいました。

身に過ぎるお言葉をいただき、恐縮しております。

このエッセイ集執筆にあたって、私がモットーとしたのは、皆様に楽しく読んでいただきたい、エッセイの中で遊んでいただきたいということです。ですから、私も楽しく書くよう心がけました。

例えシビアなことについての記述があったとしても、それもエンターテインメントの1つとして楽しんでいただきたいのです。

その目的が少しでも果たせたなら幸いです。

かなりシビアな出来事、お恥ずかしいドジ話、視覚障害者ならではの体験、人情の機微に触れたエピソード、数学に魅せられた日々のこと、何十年も心にひっかかっていること、悲喜こもごものコンクール舞台裏、幼い初恋が残してくれたもの、野鳥や植物たちが繰り広げるファンタジー、自戒の念を新たにした体験、ちょっぴり背伸びした世相批評・・・。

あれやこれやを、思いのままに綴ったエッセイ集です。

ぜひ皆様にお読みいただき、一人の女性、そして、一視覚障害者の、日頃感じている様々なことに興味を寄せていただければ幸いです。

ご感想やご批判もお待ちしております。

『寄り道人生で拾ったもの』

著者 塩谷靖子

出版社 小学館

発売日 2009年4月15日

四六判 296ページ

税込み定価 1,785円

書店に在庫がない場合は、及川音楽事務所にご注文ください。

及川音楽事務所

電話・ファックス 03-3981-6052

携帯電話 070-5592-6402

点字図書・デジタル録音図書は、数箇所の点字図書館で製作されていますので、貸し出しまたはサピエ図書館からダウンロードしてお読みください。

目次

まえがき

第一章 寄り道もまた楽し

故郷《両親の心づかい/埴生の宿/小さな別世界/実在風景から心象風景へ》

海ホオズキとピアノ《幻の町/吉野先生との出会い》

菩提樹が呼んでいた《新世界/音楽を専攻するということ/菩提樹の呼ぶ声》

盲学校から大学へ《なんとなく過ぎた日々/懐かしのオープンリール/数学との出会い/進路/大学へ》

卒業、結婚、仕事《こんな学生運動も/試行錯誤の日々》

そして歌へ《始まりは/声楽家として》

奏楽堂日本歌曲コンクール《コンクール入選/レセプションで/事の始まり/コンクール風景/その後》

第二章 寄り道小道

点字からインターネットへ《点字を持たない民族からの脱却/インターネットこぼれ話/情報の80パーセントは目から》

「傘がない」症候群《家族/夫との日々/その他の家族》

子育て親育ち《私の手抜き子育て/駒場の思い出》

煮たり焼いたり、もてなしたり《サヤエンドウの香り/擬人化される食材/こんなことも》

父とドレスをめぐる十日間《父との語らい/騒動の顛末》

我が初恋の記《ある日の授業/一喜一憂の日々》

折々の鳥の歌《町の鳥/野山の鳥/イングランドの鳥》

折々の草むらの歌《虫の武蔵野/虫あれこれ/鳴く虫のアウトロー》

日本は特別な国?《点字ブロックに思う/日本人の自虐性》

なぜ歌うのか《○○とは何ですか/なぜ○○するのですか/ある評論家の言葉》

年譜

参考資料

解説(日野原重明)

以下はエッセイ集のまえがきです。

まえがき

「私にエッセイなど書けるのだろうか」。

これが、小学館の宮保哲朗さんからエッセイ集執筆のお話をいただいたときの気持ちだった。

私のホームページに載せてあった、数編のつたないエッセイをご覧になって思い立たれたという。

文章を書くことは昔から好きで、視覚障害者関連の雑誌や会報への執筆をすることは時々あった。

だが、それは一年に一度あるかないかのことで、しかも、せいぜい二千文字程度、内容だって、とてもエッセイなどと言えるようなものではなかった。

そんな具合だから、一冊の本になるほどのものは書けそうもないと思った。

だいいち、題材そのものが、そんなにあるとも思えなかった。

平凡でつまらない題材ならいろいろあるかもしれないが、それを面白く書くような技量など私にあるとも思えなかった。

非日常的なこと、面白そうなこと・・・。

何かいい題材はないかと考えていると、数ヶ月前の、ある全盲の女友達の言葉を思い出した。

「二人だけでホストクラブに行ってみない?」。いきなり突拍子もないことを言うものだと思ったが、どんなところか一度くらい行ってみてもいいかなとも思った。

夫に話すと、 「話の種に一度くらい行ってみる価値あると思うよ」と言う。

その女友達の夫も同じようなことを言ったらしい。

だが、実行するとなると、その方面に全く無知な私たちのことだから、「いったい、どのくらいのお金を取られるのだろう」、「安くて楽しめるお店って、どうやって探すのだろう」などと考えているうちに、ついつい面倒になり、話はそれっきりになっていた。

このことを思い出したとき、これをエッセイの題材の一つにできないだろうかと、ふと思った。

丁度そのとき、ジャーナリストの小西克哉さんと漫画家の辛酸なめ子さんとの会話がラジオから聞こえてきた。

なめ子さんが、潜入ルポと称して有名人のセレブパーティーに行った話を軽妙な語り口でルポしていた。

そうだ、私もこれでいこう、と思った。「全盲女性二人ホストクラブ潜入ルポ」という題材で一つ書けそうだ。

お店に私たちが入っていったら、あちらはどんな反応を示すだろうか。

どう接したらいいか戸惑うだろうか。それとも、いろんなお客を扱い慣れているだろうから、動ずることなく接してくれるだろうか。

イケメンに私たちの相手をさせても意味がないからと、三流どころを連れてくるかもしれない。

いずれにしてもケータイで写真を撮って、後で誰かに確認してもらうことにしよう。

あるいは、イケメンより会話上手のホストを選ぶくらいの配慮をしてくれるのかもしれない。

その会話や扱いが思いのほか気にいって、ホストクラブ通いにはまってしまい、ミイラ取りがミイラになってしまったらどうしよう。

だが、あれこれ考えながら、とりあえず小さい頃のこと、仕事や歌にまつわること、趣味のことなど書き進めるうちに、意外といろいろな題材が浮かんできて、気がつけば、

いつの間にか指定のページ数に達してしまっていた。

そんなわけで、ホストクラブ行きの件は残念ながらお蔵入りとなってしまった。

これは、いつかのお楽しみにとっておくこととしよう。

執筆にあたって気になったことの一つに、視覚的描写のことがある。

私は八歳くらいには完全に失明していたから、大人になってからの体験を書くとき、直接自分で見たように視覚的描写を取り入れれば、フィクションなら別として、エッセイとしては真実でなくなってしまう。

だから、本当は、「木漏れ日が無邪気に踊っていた」とか、「夜の深い闇の底に」とか、「その、あどけない笑顔が」などと、想像のおもむくままに書きたいところだが、それはやめることにした。

かといって、全く取り入れないで書いたのでは、モノトーンな記述になり、読者の方々を退屈させてしまうのではないかという心配があった。

それで、例え視覚的描写がなくても、風景や人物についての視覚的イメージが自然に浮かんでくるような記述をすることに努めたつもりだが、果たしてどう感じていただけるだろうか・・・。

このエッセイ集を読んでくださる方々に、一人の女性、そして、一視覚障害者(あくまでも一視覚障害者であって、視覚障害者全体ではない)の、日ごろ感じている様々なことに興味を寄せていただければ幸いである。

このエッセイ集は、視覚障害者用の、音声による画面読み上げソフトを頼りにパソコンのキーボードを打ちながら書いたのだが、これだと、音声を聞き損って、うっかり漢字の変換ミスをすることが多い。

だから、原稿をメールで送る度に、念入りなチェックをしてくださった宮保さんには心から感謝している。

なお、このエッセイ集に登場する方々のお名前は、フルネームで書かれているもの以外は、仮名を使わせていただいた。

最後に、私を応援してくださったファンの方々、導いてくださった先生方や友人、喜怒哀楽を共にしてくれた家族や亡き両親、そして推薦文をお寄せくださった阿刀田高先生 、

解説をお寄せくださった日野原重明先生に感謝しつつ、筆を置きたいと思う。

二00九年早春

塩谷靖子