去る5月31日、視覚障害当事者である私(全盲)が、「視覚障害者の読み書き事情」と題してお話をさせていただきました。ノートパソコンのキーボードを打ちながら、広辞苑や英和辞典などの電子辞書を引いたり、文章を書いたり、インターネットでその日の新聞を読んだり調べ者をしたりと、実演を交えながら説明させていただきました。

ちなみに、今この文章もパソコンで書いています。たまに、どんな漢字を当てはめていいか分からなくなると辞書を引きます。書き終わったらエッセイスト・クラブにメールで送り、それを飯山さんが印刷してくださるというわけです。これまで会報に書かせていただいたエッセイも、この方法で載せていただきました。

パソコンは、皆さんが使われているのと同じもので、私たちは、そのパソコンに、文字を合成音声に変換するためのソフトを入れて使っています。もちろん画面には普通の文字も表示されます。パソコンにピンディスプレーを接続すれば、文字を点字に変換することもできます。点字と言っても、紙に打ち出すのではなく、細いピンの凹凸で点字の形が浮き出るようになっています。つまり、文字が電子データになってさえいれば、それを、視覚・聴覚・触覚情報に変換することができるのです。活版印刷の時代と違い、現在では辞書も新聞も本も、文字が電子化されているので、このようなことができるわけです。健常者も、最近では重い紙の辞書でなくポケットに入る電子辞書を使い、嵩張る紙の新聞をやめてインターネット新聞を読む人が増えていますが、これも電子化のおかげです。そして、特にその恩恵を受けているのは視覚障害者ではないかと思うのです。

今から30年近く前、それまで点字と録音だけに頼っていた私たちは、パソコンの登場により普通の文字を読み書きできるようになったのです。それは革命的とも言える変化でした。点字の辞書類は何十冊にもなっていて、それを引くのは大変な作業でした。それが、パソコンのキーボードを打つだけで瞬時に引けるようになったのです。読めるのはあくまでも電子データとしての文字の場合で、紙に書かれた文字は読めません。とは言え、10数年ほど前から、不完全ながらそれもできるようになったのです。紙に印刷された文字をカメラで光学的に読み取り、それを電子化することによって実現したのです。一般の書籍は、著作権のことなどあり、新聞や辞書のように、出版されると同時に読むのは困難です。しかし、以前に比べれば、私たちの読書環境は飛躍的に進歩しました。

「サピエ図書館」で検索していただくと、音声や点字のデータになっている何十万タイトルの書籍の目録をご覧いただけます。私たちは、これらの書籍をパソコンでダウンロードして読むわけです。もちろん、会員登録しないとダウンロードはできません。会員登録するには、視覚障害者であることを証明するための手続きが必要です。

今では、盲学校でパソコンの指導がされているので、若い人たちは普通にパソコンが使えますが、30年以上前に盲学校を卒業した人たちは、独学や、視覚障害者対象のパソコン教室に行ったりしてマスターするわけです。

視覚障害者にとって、こんなに便利なパソコンであっても、健常者がそうであるように、高齢の視覚障害者の多くがパソコンを拒否しているのも事実です。私たちはパソコンの画面が見えないため、マウスが使えません。ですから、操作は全てキーボードで行わなければならず、それがネックの一つになっています。私は50歳を過ぎてからパソコンを始めたので、いまだに四苦八苦しています。先日、95歳で亡くなった全盲の方は、若者顔負けのパソコンユーザーでしたが、あくまでも例外だと思います。

電子化された文字を合成音声や点字に変換したとき、その音声や点字が時々変な変換をします。やはり人間にはかなわないのです。最後に、その中から面白い例を挙げておきましょう。この他にも、例を挙げればたくさんありますが、私たちは慣れているので、たいていの場合、類推がつきます。どうしても分からないときは、その文字の部分にパソコンのカーソルを持っていき「詳細読み」という手続きをすれば、どんな漢字が使われているかが分かるのです。

机上の空論→つくえうわのそらろん

万年青年→おもととし

今日の出発→いまひのではつ

職人魂→しょくひとだま